研究内容

先端薄膜合成

パルスレーザー堆積法

図1 パルスレーザー堆積法(PLD法)

パルスレーザー堆積装置(PLD法)は酸化物の高品質な薄膜結晶を合成する装置です。紫外線(YAGの4倍波:266nm)の強力なレーザーを真空中に置いた原料に集光し、原料を瞬時(n秒オーダー)に蒸発させます。アブレーションされた原料はプラズマ状態になり、高温に加熱された基板上に薄膜として堆積します。YAGレーザーの強度や周波数、基板の温度やガス雰囲気を精密に制御することで、バルク単結晶に匹敵する高品質な薄膜結晶を合成することができます。現在、この装置を用いて希土類元素をドープした酸化物蛍光体薄膜、酸化亜鉛ベースの半導体薄膜、透明電極材料の薄膜を作製しています。このPLD装置を使って薄膜を合成するだけでなく、LabviewやJavaなどで作られたプログラムに改良を加え、薄膜作製プロセスのオートメーション化を進めるプロジェクトにも参画しています。来たるAI社会を担う“ものづくり装置”として役立てるべく、先端薄膜合成プロセスの研究開発を進めていきます。

コンビナトリアル薄膜合成手法

図2 コンビナトリアル薄膜合成手法で作製したMg:ZnOライブラリーの電子構造

薄膜の堆積箇所を規定するシャドーマスクを動かしながら、薄膜堆積を繰り返し行うことによって、化学組成が連続的に変化した組成傾斜薄膜を1枚の基板上に集積することが可能になります。このコンビナトリアル手法を用いて希土類ドープ酸化物蛍光体材料やMg:ZnOなどの化合物半導体の薄膜合成を行ってきました。前者の例では、TbをドープしたY2O3薄膜における濃度消光の動的効果、静的効果を明らかにすることに成功しました。また、後者のMg:ZnOの実験では、Mgのドープ量によって変化するバンドギャップと電子親和力のMg濃度依存性を系統的に精密評価することが可能になっています(図2参照)。コンビナトリアル手法により、薄膜実験の高速化かつ高効率化を進め、DX時代に即した材料研究を推進しています。

薄膜の機能・物性

ハライドペロブスカイト材料

図3 ペロブスカイトABX3の結晶構造

ハライドペロブスカイト材料は高い光電変換効率を有する半導体で、ABX3の化学式で書かれます。A-siteにはCH3NH3+やCs+イオンが、B-siteにはPb2+やSn2+イオンが、そしてXサイトにはCl-、Br-、I-イオンが配位する材料です。イオン種を変えることでバンドギャップは可視光から赤外光領域まで変化し、太陽電池材料として応用が期待されている材料です。この材料のほとんどは液相法で薄膜が堆積されていますが、私たちのグループではドライな気相法で薄膜作製に取り組んでいます。CH3NH3IとPbI2を交互積層したCH3NH3PbI3薄膜、CsBr下地層を介したCsPbBr3薄膜の作製に取り組んできました。薄膜プロセスの改良により、薄膜特性の向上に成功しています。このようなユニークな薄膜プロセスを太陽電池、発光素子、レーザー素子に応用すべく、日々の研究に取り組んでいます。

希土類をドープした蛍光体酸化物薄膜

図4 希土類をドープしたY2O3薄膜の発光特性

希土類元素をドープした酸化物材料は蛍光体材料として広く利用されています。その発光特性はドーパントの量、母体結晶の構造、薄膜の合成パラメーターによって大きく変化します。例えば、図4にはY2O3薄膜にEu、Tb、Tmをそれぞれ1%ドープした時の組成傾斜薄膜を作製し、電子線照射下において発光特性を評価した例を示しています。ドーパントの元素によって多彩な色を示す蛍光体材料を作り出すことが可能になっています。このようなコンビナトリアル手法を使いながら、ドーパントの量を連続的に変えて濃度消光を観察し、蛍光体特性を増強するために必要なパラメーターの探索に取り組んでいます。

また、最近の結果では、Heバッファーガス雰囲気中で希土類元素をドープしたY2O3薄膜をPLD堆積することによって、より穏やかに成膜することが可能になり、結晶性を向上させるだけでなく、蛍光特性を高めることに成功してきました。

ユニークな評価装置の開発

コンビナトリアル一括評価

コンビナトリアル手法により、一度に沢山の薄膜を集積したライブラリーを作製することが可能です。特に組成が連続的に変化した組成傾斜薄膜(図5左)では、1回の実験から薄膜特性の組成依存性を系統的に調べることが可能になっています。このような機能特性を一括で評価し、材料特性を高速マッピングすることを可能にするために、構造解析(図5中)、組成分析、発光分析(図5右)、光透過率-反射率測定の評価装置を使いながら、新しい薄膜材料の探索に取り組んでいます。市販の装置だけでなく、Labviewなどのソフトウェアを使いながら、ハイスループット評価手法の開発を進め、コンビナトリアル合成に適した評価手法による材料開発も進めています。

図5 コンビナトリアル組成傾斜薄膜の一括合成(左), 構造解析(中), PL評価(右)について

焦電性評価 (休業中)

強誘電体材料を効率よく開発するべく焦電性を評価する装置を開発してきています。焦電性は温度が変化するときに発生する電流の性質で、強誘電体材料が併せ持つ特性の一つです。赤外線のレーザーを間欠照射することによって、薄膜キャパシターの温度を連続的に変化させ、その時に発生する焦電流を観測するシステムになっています。焦電流は電場を印加しない条件下で計測できるため、リーク電流が高い薄膜試料の強誘電体の機能を評価するのに役立ちます。これまでにこの方法を用いてFe3O4やLa2NiMnO6の強誘電性を解明してきました。装置の詳細についてはこちらからフリーダウンロードできますので、興味のある方は読んでいただければと思います。

焦電性評価装置以外にもカンチレバーを評価する装置やホール測定装置についても自作のプログラムで制御し、機能性薄膜の研究開発に取り組んでいます。

図5 焦電性評価装置と焦電流のヒステリシスカーブ